Cobalt's Photolog

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ダリの絵

去年スペインのマドリードへ出張したときに感動したダリの絵について。

 

会社のあるデザインのプロジェクトに参加しました。状況を簡単にまとめると、デザイン開発をスペイン人デザイナーに頼んでいたのですが、デザイン案が提案された時に、これでいいのだろうかという話になり、お前が責任をもってサポートせよ、と私が引っ張り出されたという流れです。

 

経緯はどうであれ、担当になってしまうとプロジェクトの失敗は私の責任になってしまいます。スペイン人デザイナーと、電話会議やメールでやり取りしていましたが、いろいろ考えもあわないところもあり、最終案を決めるにあたり、やはり顔をあわせてじっくり話をしようということになって、私がスペインへ行くことになりました。

 

出張予定は一週間。マドリードへは関空からの直行便はなくて、オランダでの乗り換えになります。オランダで乗り換える場合は、JALよりもKLMにしておくと、チェックインやチケットのことがわかりやすくて便利です。KLMは紙のチケットがなくなっていて、スマホにバーコードを表示させて搭乗券として使うようになっています。現代ではスマホは欠かせませんね。壊れたり失くしたりしたら大変です。

  

打ち合わせをする会社は、マドリードの中心街ではなく郊外にありました。会社の近くのホテルに宿泊して、毎日20分ほど歩いて通いました。気候もよかったです。スペイン人のデザイナーは、とにかくペラペラよく喋る男。口を開くと意味のないことも含めてずっとしゃべり続けて、明石家さんまのような男でした。私は英語が苦手だからと言っているのに、とにかく喋り続けるのでとてもイライラしました。

 

相手の喋っていることは半分くらいしか聞き取れない、英語があまり得意でない私が、なぜ海外で仕事が可能かというと、それはデザインという仕事だからです。デザインは言葉の説明がなくても見れば、いいか悪いか、問題がどこかがわかります。中国人やインド人のエンジニアと英語で打ち合わせしても、図面などを使えばお互いの言語がよくわからなくても、コミュニケーションができるのです。

 

お互いに意思疎通しようという気持ちがあって、共通の目的があれば、言語の壁なんて簡単に超えられます。英語が喋れなくてもなんとかしないといけない、という状況を何度も経験していると、喋れなくても仕事ができる人間になるのです。でもやはり英語が少しでも出来たほうが、仕事がスムーズにいくのは確かなので、時々思い出したように勉強するのですが、TOEICの点数がさっぱり上がりません。

 

なんとか最終案のかたちも見えて、帰国する前日に少し時間があいたので、マドリード市内観光も兼ねて美術館に行くことにしました。プラド美術館とソフィア王立美術センターのどちらに行くか迷いましたが、近代アートが好きなので、20世紀のアートの所蔵が多いソフィア王立美術センターに行くことにしました。

 

市内までタクシーで行って、ぷらぷらと街歩きをしながら、ソフィアへと向かいました。やはりマドリードは観光都市。観光客らしい人が多かったです。

  

 

スペインの街並みは、旧い建築がたくさん残っていて、とても美しい街並みでした。さすがは元スペイン帝国。15世紀から17世紀まではスペインは絶頂期で、世界を席巻していたのです。しかし現代では農業や観光以外ではたいした資源も産業もなく、EUの中では存在感は小さい国です。しかしアートではすぐれた芸術家をたくさん輩出した国なので、時間があればぜひ美術館に行くつもりでした。打ち合わせも頑張りました。

 

ソフィアの美術館は近代的な建築で、広くて大きな展示室がいくつもありました。ミロ、ダリ、ピカソなど近代絵画の巨匠作品がたくさん展示してました。日本の美術館での展覧会で目玉になりそうな絵があちこちにあって、世界有数の素晴らしい美術館だと思います。あまりにも素晴らしい作品がたくさん置いてあるので、見ているうちになんだかフワフワした気持ちになりながら、絵を見て回りました。

 

ある展示室の奥まったところで、1枚の絵に目がとまりました。若い女性が窓辺に立って、部屋の外の海を眺めている絵です。知らない絵でしたが、なぜか私の心を大きく揺さぶりました。絵に引き込まれて、絵の前で数分間は立ちつくしていたと思います。知らないうちに感動で涙が溢れてきました。絵の中にある窓から見える海が、絵画を照らすライトの光が絵の具に反射してキラキラ輝いていて、私は絵の中の空間で、女性を後ろから見守っているような錯覚に陥りました。

 

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我にかえり解説を読むと、ダリが若い時に描いた絵でした。後で美術館のショップに行くと、その絵のお土産グッズが置いてあったので、ダリの有名な作品であることがわかりました。ダリの絵といえば、幻想的な半抽象絵画であり、このような写実の絵画は若い時にしか描いていないのです。この絵は、ダリがまだ無名だった頃、絵のコンクールに出された作品で、審査員の一人だったピカソが見て、こいつは天才だと絶賛した作品だそうです。

 

絵を見て、それほどまでに感動したのは久しぶりでした。この絵を見ただけでも、わざわざ来てよかったと、得をした気分になりました。実はこの絵には心理的なトリックが仕込まれていて、絵の中の人が窓から海を眺めている構図は、絵を鑑賞する人の視線と、絵を描いたダリの視線を重ねる効果があるそうです。絵を見ていると自分自身がその空間にいるような気がする、というのはダリのテクニックにまんまと乗せられたということです。

 

絵の構図に加えて、私の心が引きよせられた大きな原因は、絵のモデルの後ろ姿が、昔知っていた人に似ていたからだと思います。少しふくよかなプロポーションの後姿は、昔に親しくしていたた女性の後姿を思い出させるものでした。ふっくらとしたその人にどことなく似ていて、私は彼女のことを思い出しながら、センチな気分になったのかもしれません。絵のモデルはダリの妹を描いたものでしたが、私にとっては私自身の思い出の中にいる女性に見えたのです。

 

その絵にすごく感動したので、日本に帰ってから絵画ポスターをアメリカのサイトから購入し部屋に飾りました。でも、自分の部屋でその絵の前に立っても、ソフィア王立美術センターで、実物の絵を前にして感じたときの心の震えが甦ることはありませんでした。たぶん実物の絵が持つ力と、異国で一人絵を眺めるという状況が、その時の私の感傷を何倍も増幅したのだろうと思います。

 

スペイン人は陽気で開放的で、料理もとても美味しくて、いつかまたプライベートで訪れて、のんびりしてみたいなあと思いました。明るい国民性は、何となく台湾人や大阪人と共通する気性を感じました。いつかまた訪れたい国です。