Cobalt's Photolog

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花の写真を撮っていて

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 日本人は昔からカメラ好きな民族で、ほんとうにたくさんの人がカメラを趣味にしています。撮る被写体も様々で、子供や女性などの人物を撮ったり、空や海、山といった風景、お寺や神社などの建築物、猫や犬などの動物、街撮り、野鳥や飛行機、たくさんの被写体があって、アマチュアカメラマンの選ぶテーマも千差万別です。趣味ではあるものの、少しでもいい写真が撮れるように、勉強したり工夫したりされていますね。

 

そして、デジタルカメラ、スマホが普及して、写真は一部のカメラオタクだけでなく、誰でも簡単に撮れるようになりました。写真という趣味は、焦点距離、ISO、絞り、被写体深度、シャッタースピードなんかわかっていなくても、みんなが楽しめる世界になっています。

 

私がカメラをはじめて買ったのは学生時代で、ミノルタのフィルムカメラを使っていました。使用目的は明確で、自分がデザインした作品の撮影や、資料収集のためでした。写真で何かを表現するというより、実用的な使用目的だったのです。

 

APS-Cのデジタルカメラを買ったとき、カメラで何か作品らしきものを撮ろうと思い始めました。デジカメはフィルムと違って、何枚撮ってもコストはかからないですから。最初はズームをつけてオートで撮っていたので、焦点距離や絞りなんてあまり考えずに適当に撮っていましたが、フルサイズのカメラを買ってから、きちんとカメラの理屈をわかった上で写真を撮りたいと、本を読んで理屈を学び、写真を撮って確認するということを繰り返しました。

 

それと同時に何を撮るか、何を撮ると楽しくなるのか、と考えながらテーマを探していました。ネットで趣味の写真を投稿しているサイトを見たりすると、花の写真を撮っている人が多く、私もロバート・メイプルソープの写真集が好きだっので、マクロレンズの勉強もしながら、花の写真を撮ってみようと思いました。

  

カメラにマクロレンズを装着して、花の咲いている植物園へ行ってみました。マクロは細かい部分が撮れます。遠くで見たら綺麗な花でも、近くで見ると葉っぱが欠けていたり、花びらが変色していたり、なかなか写真映りの良いものが見つかりません。そうこうしているうちに、ちゃんと品質管理されている売り物の花のほうがいいのだろうか、写真を綺麗に撮っている人は、まず完璧な花を探す事が大事なんだな、ということに気がつきました。

  

でも、思ったのです。 綺麗な花も、歪な花も、同じ花ではないか。植物も自然の中にいたら、葉が欠けたり、花びらがちぎれたりするのは当たり前だろう。それに時間が経つと萎れていくのだし。花びらが揃っている花が、他の花よりも特別という理屈は自然の中ではないでしょう。勝手に人間がそう思っているだけです。では人間が考える美しい完璧な花の価値とはいったいなんなのでしょう。

 

そしてそこに価値を感じるのは、人間だけの文化であるとしても、それを数ある中から探しだして撮影し、満足するという行為は、果たしてアートといえるのでしょうか。誰しもが綺麗だねというものを、わざわざ時間をかけて探して写真に撮っているだけでは?

 

なんか、そんな理屈を考えていたら、花を撮ることがつまらなく思えてきました。ロバート・メイプルソープの花の写真集に、すごく感動したくせに、自分で撮ろうとするとそんな屁理屈が頭に浮かんできて、なんだか白けてしまったのです。

 

このような写真は、記号であり幻想の美しさだと思います。人が感動する美というものは、実は脳の中のイメージでしか存在しなくて、現実には存在しません。現実にあるものは、どこか欠けていて、不完全であり、完璧な美というものは存在しないと思うのです。

 

カメラマンは、現実の中にあるノイズを出来るだけ取り払って、主題となる美しさだけを写真に残します。フォトショップで女性の顔写真を加工するのも同じ行為です。そのことによってより伝えるイメージが強化され、見る人が写真に惹きつけられるのです。アマチュアカメラマンが同じような写真を撮ろうとすると、その写真を撮ったカメラマンと同じことを追体験するわけです。そうすると、自分が感動した写真は、そのカメラマンがつくり出したイメージだったことがわかってしまうのです。

 

メイプルソープは、自分の死を悟ったときに、ものすごい執着心で、花の写真を何枚も撮り続けました。彼が残そうとしたのは、花の持つ純粋な美しさと、その儚さでした。表現だけではなく、徹底的にノイズを取り去ることもしてあの写真は生まれているのです。私はそこまで頑張れません。花に関しては、きれいだな、と思ったらシャッターを押すぐらいでちょうどいいのだと思います。