Cobalt's Photolog

About Photos and Arts

モノクロプリントの仕掛けと魅力

大谷記念美術館で開催されていた、石内都氏の作品展にとても感銘を受けたので、もう少し彼女の作品について理解を深めようと、写真集などを数冊購入しました。

 

 

購入したのは「モノクローム」という写真エッセイと、「イノセンス」「連夜の街」の写真集二冊です。

 f:id:toshihiko-w:20210716172753j:plain

f:id:toshihiko-w:20210814072106p:plain

イノセンス / Innocence(Signed) - 石内 都 / Miyako Ishiuchi

 

どれも廃版になっているため、中古本でしか買えなくて、定価よりも少し高いお金を出しての購入です。手元に届いて内容を見てから、焦って買ってしまったかも・・・と少し後悔しました。


というのも、写真集を見ても、美術館での展示写真ほどいいと思えなかったからです。美術館の写真は、大きく引き伸ばされていて、フォルムの粒子がよくわかるくらいのプリントでした。画像が荒くなっていて、それが味になっているのがよかったのですが、やはり写真集は普通の白黒印刷ですから、それほど訴えてくるものがありません。

 

もう普通に見えるというか、被写体があまり絵になっていないというか、悪く言えば気どった記録写真のような。石内都氏も「引き伸ばしすること」が、作品には非常に大切と言っているのですが、それに頼ってるところが大きかったということを再確認しました。私の主観なので、他の人は違う感想があるのかもしれません。でも作家によっては写真集でもゾクゾクするような作品がありますから。

 

白黒写真の引き伸ばし作業は、私も学生時代にやっていました。大きく拡大してプリントすると、フィルムの粒子の粗さがなんともいえない感じになって、よいなあと思ったものです。フィルムによって微妙にその出方が異なっていて、コダックと富士フィルムのどちらにするか悩んだものです。

 

36枚の限られた枚数の中で、たまたま上手に撮れた写真が、引き伸ばすとさらに雰囲気のある絵になって、自分がいっぱしのアーティストになったような気がしました。それが白黒写真の面白いところで、絵が描けない人が、プリントアウトすることによって作品をつくることができるので、ハマっている人が多かったのでしょう。

 

アートには、定義や決まった手法はなくて、作品によって何らかの感情を想起させることができれば、それがアートといえるわけです。白黒フィルムの35ミリの化学反応で得られる解像度の限界が、ノスタルジーな感傷を呼び起こすなら、それはそれでいいのですが、仕掛けがわかってしまうと、少々白けてしまうこともありますね。

 

 そしてあれだけモノクロにこだわっていた石内都氏も、最近はカラーの作品をたくさん撮っているということは、その仕掛けに飽きてしまったということなんでしょうか。油絵を写真で見たら、魅力が数パーセントになるのと同じでしょう。

 

今はスマホで写真を見ることがスタンダードになってしまい、写真のプリントの風情や大きさによって、見え方が違う、ということが特殊な写真の楽しみ方になってしまったのは少し残念な気がします。